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2009年 1月
三菱半導体〈大電力半導体〉
サイリスタのトリガ回路設計法
一方、マグアンプなどをトリガ電源とする場合、ゲートに印加
される電圧波形は方形波に近く、トリガ電気角のバラツキは小さ
くなります。なお、トリガ電源電圧波形が方形波のときは、その
ピーク値を用いてゲート負荷直線を引きます。
以上で回路定数は決まりましたが、誤動作防止のためゲート・
陰極間にコンデンサ(例えば0.047mF)を挿入します。この回路で
は、トリガ電源電圧の半波整流のためにシリコン・ダイオードを
使用しておりますから、雑音電圧による誤動作防止に役立ってお
ります。なおゲートリード線は、平行2 心線又はシールド線を用
い、素子のゲート及び陰極端子に直接接続して電磁誘導を受けぬ
ように配置、結線を考慮します。
5.オン電流上昇率 di/dtの高い場合のゲート回路設計法
次にサイリスタをモータ制御、インバータ、DC チョッパなど
サイリスタのトリガ時にオン電流上昇率 di/dtの高い、大きな瞬
時電流が流れる用途に使用される場合のゲートトリガ法について
説明します。
サイリスタのターンオン時間はゲートに流す電流の大きさ、
幅、オン電流、サイリスタの陽極・陰極間の電圧の大きさ、負荷
の性質などの影響を受けます。しかしサイリスタはトリガ電流、
電圧以上の電流、電圧を印加しますと必ずトリガします。また
モータ制御、インバータ、DC チョッパなどのように、サイリス
タがトリガした瞬間に大きな、しかもオン電流上昇率 di/dtの高
い電流が流れる用途では、ターンオン時に局部的な温度上昇が起
こり、特性が不安定となったり、場合によっては劣化を生ずるこ
とがあります。このような現象もトリガ回路の設計法によって解
消され、より高信頼度で運転することが可能です。
6.ターンオン時の電流集中
サイリスタのターンオンの現象を考えてみますと、ゲートに信
号がはいってから、その導通領域が接合全面に拡がってしまうの
には、ターンオン時間よりかなり長い時間を要します。ターンオ
ン領域が拡がっていく過程は、ゲートに最も近い領域からキャリ
アの注入が起って、ゲート近傍の局部からターンオンが始まり、
ここに電流が集中しこの局部を加熱します。この局部への電流集
中による温度上昇は素子の特性を劣化させることがあります。し
たがって局部に電流集中が起こらないよう、素子に流れるオン電
流の上昇率をある値以下に抑えなければなりません。これが
di/dtの限界値です。
しかし、オン電流上昇率 di/dtの低い用途に対しては、このよ
うな局部的な温度上昇は問題になりません。
しかし、モータ制御、インバータ、DC チョッパなどサイリス
タのトリガ時にとくにdi/dtの高い電流が流れる用途ではこれが
問題となります。すなわち、ターンオン時の大きな di/dtに対す
る配慮は、とくにスイッチング電流の大きい大電流用素子につい
て必要です。
7.ゲート構造とターンオン領域の広がり
一般にターンオン領域の広がりの速さは約 0.1mm/ms程度と
言われていますが、ターンオン領域が有効導通領域の全面に広が
るに要する時間はゲート電極の構造、ゲート駆動電流の大きさに
(5)ゲートと直列にシリコンダイオードを接続し、その立ち上が
り電圧(約 0.7V)を利用して雑音電圧を阻止する。
(6)ゲートを陰極に対し負バイアスし雑音電圧を阻止する。
以上を図によって示すと図 3 のとおりです。
図4.トリガ回路結線図
4.ゲート回路の設計例
図 4 のような主回路電圧と同期した電圧でサイリスタ
FT1000A のトリガ回路を設計する例を説明します。トリガ電源
の負のサイクルはシリコン・ダイオード(SR)で阻止させます。
なお、このダイオードは、シリコン・ダイオードで、立上り電圧
が0.7V あり、誤動作防止に役立ちます。トリガ電源電圧はシリ
コン・ダイオード(SR)で半波に整流されますので、ゲートの責
務期間は 50% となります。図 1 のゲート負荷直線図に責務期間
50% 時の許容電力損失曲線を書き込みます。三菱サイリスタ
FT1000A ではゲート平均入力が 3W ですから、例えば責務期間
50% の場合は 6W のラインとなります。
すなわち
の値を用います。この値がピークゲート損失(FT1000A では
10W)を越した場合は 10W を用います。
たとえば、トリガ電源電圧のピーク値を14Vとしますと、ゲー
ト負荷直線ABは14Vから50%責務期間時の許容電力損失曲線に
接するように引き、短絡電流 1.75A を得ます。この直線の勾配
(14V/1.75A)より抵抗値は 8Ω以上でなくてはならぬことがわか
ります。ここで、抵抗値を 8Ωとして、他のトリガ電源電圧に対
するゲート負荷直線をABラインに平行に引きます。トリガ電源
電圧が零から上昇するに従い、ABラインに平行な一連のゲート
負荷直線をとり、斜線部を横切らぬようになったとき、すべての
素子がトリガします。CD ラインはこれを示し、トリガ電源電圧
が4.5Vいることを示します。一方EF ラインより、トリガ電源電
圧が 0.5V になったとき、ある素子はトリガすることがわかりま
す。正弦波によるこのトリガ方式では、素子の特性により、トリ
ガ電気角は2.0°から19°の間にばらつきます。このバラツキを小
さくするには、電圧を立上りを急峻にすればよく、もっと高いト
リガ電源電圧を用いて、ツェナーダイオードで 20V 以下にク
リップします。
ゲート平均入力× 100
責務期間(%)
SCR
C
RSR
V
O
負
荷
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